2012年4月28日土曜日

かごめかごめ 好奇心は退屈を殺す


 ――――いつもと同じ。

 

 イタリアで遊んでいたら、大きな仕事は入った。
 ボンゴレと旧知の殺し屋が併せての極秘の依頼だった。

 殺しではない。
 かと言って医者としての仕事かと問われれば微妙な線だった。

 内容は、こうだ。

『ボンゴレ十代目候補、沢田綱吉の血液採取及び、その分析。その死炎純度を確認次第、調査書として提出すべし』

 学生の研究課題か、と思わず突っ込みたくなった。
 かのボンゴレの内部が荒れてことは知るところでは知れている。
 シャマルも聞き及ぶ一部に含まれた。

 次期ボス候補三人が全て死亡。
 まさか三人もこさえておいて全滅とは、何やら策謀めいたものが臭うが、深入りは危険だということは十分承知しているため考えるのは止めた。

 しかし、驚いたのは初耳の四人目の候補者の存在だった。
 他に身内でそれっぽいのがいたのか、と考えあぐねたが、それについては直接連絡を寄越してくれた殺し屋から詳細を聞かされた。

 どうやら、本当にもしものための予備中の予備として考慮して仮の候補として放置されていたらしい。
 そして、正しくは九代目の親類ではなく、伝説と語り継がれる初代ゴンゴレの直系なのだという。

 確か、その当代は門外顧問のトップに就いているはず、と思い出した。
 
 その息子であると結びつくのも容易だった。

 
「血脈狂いのボンゴレが、日本人のガキを……ねぇ」

 こりゃいよいよ天下のボンゴレも終わりかもしれない、と正直思った。

 しかし、仕事は仕事だった。
 報酬は肩透かしな仕事内容とは打って変わって、かなりはずんでいる。
 日本という遠出がやや億劫だったが、久々に東方特有の童顔娘を漁るのも悪くないと気を持ち直した。

 仕事ついでに適当に遊んで、また帰ってこよう。

 いつもどおりに、仕事を終えて。

 ――――いつもどおりの仕事だと、思って。

 事前での依頼人――――リボーンとの口裏合わせはこうだ。

 十代目候補沢田綱吉は、まもなくドクロ病に発症する時期である。
 よって、シャマルの所有するエンジェル病ウイルスで処置する必要がある。
 その際に、沢田綱吉の血液を採取し、それから死炎純度を割り出す。

 何故か、リボーンの個人的な楽しみ(生徒イジり)のために、シャマルが当初は治療を渋るという手順が追加された。

 実際に見た件のターゲットは、噂以上に平凡な子供だった。
 容姿も雰囲気も、特に特出したものはない。

 ただ、意外なことに自分が不治の病にかかったことにあまりうろたえていなかった。


""ジョニー·タイラー"を二人はあなたのゲームをプレイすることができます。"

 黒幕のリボーンが傍らで密かに拍子抜けしていることを思いつつも、いざ治療を拒否してみても呆れたように溜息を吐くだけで取り乱しもしないときた。

 何か違和感を覚える反応だった。
 一見した評価として下した『平凡』という言葉が揺らいだ。

 更に、不審な箇所が目に映った。
 
 ドクロ病の進行が異様に遅い。
 タイムリミットを半分以上過ぎているにも関わらず、沢田綱吉の身体にはその証たるものが一切見られない。
 こんなことは医者としての人生史上初めて見る例だった。

 手の平のドクロマークが、間違いなく発病を証明している。
 しかし、それ以上の悪化が見られないことが気がかりであり、謎であった。

 
 その後は、どうにもならないとあっさり死を受け入れたターゲットに逆にこちらが焦る羽目になり、任務失敗を防ぐためになんとか強引に治療に漕ぎ着けた。

 治療は完了。
 血液採取には、成功。

 依頼内容は、仕上げとばかりになった時――――シャマルは、既に『いつも』の仕事ではなかった
ことに気付いた。

 
 滞在するホテルにて、その検出結果を目の当たりにしたシャマルの脳裏を、ある知識が巡った。

 死炎純度。
 それは、ボンゴレの血統に連なる者が発現する炎の異能の強さを測る基準値を指す。
 高ければ高いほど、その炎が強く、ボンゴレとしての質は高いことを意味する。

 過去の唯一の最高純度100%を追うように数々の記録が今日まで残されている。

 そして、

「……まさかこれが原因か?」
「だろうな」
「リボーンよぉ……俺は死ぬ気の炎が、病魔の進行すら相殺するなんて初耳だぜ。リボーン」
「奇遇だな、俺もだ。時が来たら、ボリーン教授として俺が研究発表してみるか」

 
 この驚愕的な事実を前に呑気なことをのたまうリボーンをよそに、ひょっとしたら、とシャマルは思考に馳せる。
 エンジェル病による治療なくしても、あのまま放っておいてもあの子供は『自らの生命力』で病魔を打ち消してしまっていたのではないか。

 そうなれば、ドクロ病は晴れて不治の病の権威を陥落させてしまう。
 思わず背筋が震えた。
 腐っても医者たる人間としての好奇心が滾ったのだ。
 
「しかし、こいつは……ボンゴレの古狸幹部どもも喉詰まらせるだろうな。これで依頼は果たせたか?」
「……ああ、十分だ。当分は煩い口を黙らせてやれるだけの物証にはなるぞ」

 リボーンは満足そうに口端を釣り上げていた。
 相変わらず赤ん坊らしくなく可愛くない笑みである。

 ただし、中身は赤ん坊ではないのだから自然ともいえるのだが。


マリオ·どのように私は息をしない

「人は見かけによらねぇたぁ言うが…………こんなこともあるんだな」
 
 半ば独り言のように呟きながら、何度と無く見直しながらも書き出した検出結果を再度見つめる。

  
 死炎純度――――95.8%。

 あんな子供が、とつくづく思う。

 しかし、本当に驚くのはこれからだった。 

「シャマル、調査書作成する際には一つ付け加えとけ。――――まだ、覚醒前の数値だとな」

 ポケットから取り出そうとしたタバコを、思わず取り落とした。
 床に落ちるそれを放置し、思わずリボーンを見遣る。

 
「……これで、まだ伸びしろがあるって?」
「まだまだ不確定要素があるってこった。なにしろ、【最高血統の血】だからな」

 添えられた最後あたりに昏い何かが滲む。
 
 聞こえなかったふりをした。
 触らぬ神に祟りなし、とはこの国の誰かはうまいこと言ったもんだと内心で零す。

「……しかし、あの坊主をボスにってのはどうかと思うんだがね」
「ほう?」
「だってよぉ……ああいうタイプは長続きしないぜ?」

 正確には――――長生きしない、だろう。

 あの子供は、自分の命に頓着していない。
 死にたがりというわけではない。ただ、他人の命の方が重いと考えている。それ故に――――必然と自分の命を軽んじるようになる。

 他が倒れても立っていなければならないのが、キングである。それが、真っ先に倒れるような人材であればその陣営に未来はない。

「だからこそ、俺が呼ばれたんだろうが」
「……どう仕上げるんだ? キャバッローネの時みたいに周りの人間をうまく利用しようってのか?」
「と、思ったが、奴の周りにはまずその外堀を固める人間が足らない……つーか、いなかった。とりあえずはその人材確保が最優先ってところだ」
「そりゃまた手間がかかりそうなこって」
「それだけじゃねぇ。あのガキ、ダメツナなんて呼ばれてるくせに無駄に我が強い。反抗心丸出しで、俺のやることにイチイチ逆らいやがる」
「はっ。お前をしてそんな恐れ多いことやろうってんだから、肝っ玉だけはボスとして将来有望かもなぁ」 

 なんて軽口を叩くと、

「奴がどう足掻こうと関係ない。……ようやく【見つけた】んだ、逃がしてたまるかよ」

 なんとも不気味な呟きが漏れた。
 しかも、聞き流すのに失敗した。

 おかげで気まずい空気になった。
 少なくともシャマルには。

 不穏な空気の打開策を練る一方で、シャマルは理解した。

 この昔馴染みは、とうとう見つけてしまったのだ、と。
 長い旅の果て、生き甲斐としていた秘めたる復讐心の矛先の向かう相手を。

 捜し求めていた宿縁の根源。
 真のボンゴレの継承者、と。


canção ·ダ·アメリカ

「……かわいそーに」

 何もわからないだろうに、と思わずそんな同情心が口からこぼれ落ちた。
 殺し屋も医者も人の子だ。哀れむ心だって一応持ち合わせている。それくらいは。

「なぁオイ。まだ何も知らない子供じゃないかよ、相手は」
「俺だって何も知らなかった。――――だが、知った」

 シャマルはそれ以上何も言わなかった。
 部外者が口を出していいような問題ではない、ともやっとする心情にはケリをつけた。
 
「まぁ、とりあえず俺はこれを調査書で提出して、依頼完了ってことでいいのか?」
「……ああ、ひとまずな。――――そしたら、次の仕事に移ってもらうぞ」
「りょうか……………はぁ?」

 さりげなく面倒くさいことを言いくさったリボーンを見返した。

 どうか聞き間違いで――――

「すぐ使える医者は近くにいた方がいいからな。お前には当分の間、この町に滞在してもらうことになっている」
「……ちょ、おまっ」
「誰も、調査書の提出を一回だなんて言ってない。わかったら、引き続き頼んだぞ」
「はめやがったな!?」

 思わずわめくと、ヒニルな笑みが返された。

 ここでシャマルは気づいた。
 ひょっとすると、この依頼がリボーンだけでなくボンゴレ名義でもあったのは、自分が絶対に断れないようにするための策略だったのではないか、と。

「生徒囲う柵作る前に俺を権力で囲ってどーすんだよ!」
「そう喚くな。日本にもお前の大好きなカワイコちゃんはいる。……それに、この町にいれば当分退屈しなくても済むかもしれねーぞ?」」
 
 楽しいことは分かち合わねーとな、と誰かにとって不穏な言葉を呟くリボーンから視線を外し、己のこれからに嘆く。

 これだから組織がらみはイヤなのである。
 報酬は弾む分、きな臭いものがどうしてもつきまとい、何かしら不都合を被る羽目になる。今回も案の定となってしまったということか。

 おかげで、こんなへんぴな町に閉じこめられるとは。

 明日からのことを考えるだけで、溜息が止まらない。
 

 そこへ、

「……そういえば、向こうのお前のアジトに何やらどっかのファミリーの連中がお前を訪ねてきたって情報が入ったが、何かやらかしたのか?」
これからよろしくおねがいします

 背に腹は換えられなくなった、といったところか。
 
 幸い、当面の生活資金も住む場所にも悩んだり迷ったりする必要はないということである。

 少々の窮屈さは伴うが、平穏を買うには安いものだろう、と自分を納得させたところで、

「……なぁ」
「何だ?」
「…………いや、何でもない」

 言おうか迷ったが、藪蛇な気がして止めておくことにした。


 言いあぐねたのは、当の重要人物である沢田綱吉のことであった。

 リボーンが気づいているのだろうか。
 それとも、気づいているが問題視していないだけなのか。

 しかし、あの平凡を皮被る非凡の子供は、放っておけば自身の途方もない強靱な生命力で己の死の運命をねじ曲げるところだったのだ。
 
 聞けば、死ぬ気弾を受けても正気を失わずにいられるというではないか。
 それも含めて、あの一見すると小柄で脆弱な存在が実質どれほどの得体の知れないモノかわかったものじゃない。

 少年にとって絶望的な戦い。
 赤子にとって圧倒的な戦い。

 しかし、シャマルにはわからなかった。
 この一つの師弟の見えざる戦いがどのような結果を残すのか、想像はできても確定はできなかった。

 相手を下すのは、どちらなのか。
 復讐心か、反逆心か。

 いずれにせよ、

「……まぁ、確かに退屈とは当分縁遠くなりそうだよ。おたくらのおかげで」

 自分は疼きだした好奇心には勝てそうにない。

 シャマルは白旗を上げた。

 

好奇心は退屈を殺す

(とりあえずは、大穴狙ってあの坊やに賭けてみようか) 


捏造ってたのしーですね(←殴
やりすぎ注意と言われるまではやりたい放題してしまいたいと思っています。

ちなみに委員長様の方にばっか気ぃとられて、こっち出すの忘れてました。
とりあえず、本作オリジナル要素として出した、リボーンはスレツナに対してなんらかの復讐を持っている、がこれで確定。
スレツナ個人というよりは、やっぱり『ボンゴレの継承者』というところに因縁があるという感じです。
信頼し合える師弟関係が築ける日は、遠いですね今のところは。



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