資料1(1)
第2巻(2)2008年
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中間報告
Revista Soeciologica de pensamiento critieo
(主要な社会問題に関する雑誌)
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ISSN 1887‾3898
障害者の差別に関するイタリア法No. 67/2006
概要2
アンジェロ・マーラ(Angelo D. Marra)
レッジョカラブリア地中海大学(Università Mediterranea di Reggio Calabria)
1.はじめに
2006年3月1日、イタリア議会は法律第67号「差別の犠牲者である障害者の法的保護に関する規定」(2006年3月6日付イタリア官報第54号で公表)を承認した。同法律は2006年3月21日に施行された。
まず、障害者問題に関するイタリア法体系全体の概要を簡単に述べることが適切だと思われる。そうすることによって、イタリアを背景にすると、障害者問題についてどのような取組がなされ、また、この新規定がどのような意味をもつのかより理解することが可能となる。
イタリア共和国では、差別に対する規定は極めて基本的な懸案事項である。当該種類の規定は、同一の権利を享受することができる全ての国民に対して、平等の扱いを付与することを目的としている。イタリア憲法第3条の下では、(1)全て の国民は、性別、人種、言語、宗教、政治的意見、個人的又は社会的状況(いわゆる「形式的平等の原則」と呼ばれる)に関係なく、同等の社会的身分を有し、法の下に平等である。(2)実際、国民の自由および平等を制限する一方、人間の完全な発展、及び国の政治、経済、社会組織に全ての労働者が参加すること(いわゆる「実質的平等の原則」)を妨げている、経済的及び社会的障害を撤廃することは、共和国の義務であると、規定されている。
イタリア法 No. 67/2006 (以下、法No. 67/2006)は、障害者に対する法的保護規定をイタリアの法体系に導入するものである。同法は、アムステルダム条約3第13条で定められたEU法の原則を実行するために、イタリア議会が定めた法の一つである。第13条は、性別、人種、種族的出身、宗教、個人的信念、障害、年齢、性的好みによる差別に対する闘いの原則について定めている。
法 No. 67/2006 の目的は、障害者に対して、非障害者が現に享受する権利と同一の権利を付与することである。法案を精査すれば、障害者を、単に特別な状態にある人として見るのではなく、そのまま全体として共生社会を達成しようとしながら、障害者に対する保護をさらに認める政治的目的が示されている。
注目すべきことは、法No. 67/2006では、障害者差別に対する一般的救済措置が規定され、さらに当該救済措置は、法の適用を制限するのではなく、別の保護様式を含んだ別規定が加えられていることである。とりわけ、法No. 67/2006 は、第1条第2項において雇用における差別に関する法律4を適用することを妨げないと述べている。
2.法を支える原則
法案が添付された報告書は、ローマ条約第13条について言及している。また、同報告書は、イタリア法は、障害を決して一つのまとまった法律目的として扱っておらず、障害の各側面をばらばらに扱った断面のようであると指摘している。また、同報告書によると、このような意見で強調されているのは、障害者に一般保護を与えるための新たな法の起草が如何に急務であり、また、特定の部門では依然としてこれまでの法が有効である、ということである。
第1条は、各機関は、障害者を支援するとしながらも、イタリア憲法に従って現に均等待遇原則が満たされ、また、現に平等の機会が優先されることを認めると誓うと述べている。
3.法No. 67/2006 の対象となる個人
法 No. 67/2006 第1条は、新法の目的及び適用性について定めている。特に、法No. 67/2006は、障害者が、それぞれの市民権、政治経済的権利及び社会的権利を完全に享受するために、イタリア憲法第3条に従って、1992年の法律第104号第3条で定める、障害者に対する均等待遇原則および機会均等を十分求めることを優先する。
法67/2006ではイタリア憲法に言及しているが、これは単に形式的な理由からではない。それどころか、この言及は、例えば、一般法と比べると対象を憲法レベルでより関連づけている。こうした法的選択により、それに関する規定が無視されず、また、免れることもできなくなっている。
さらに、法67/2006で選択された言葉から、新法の中心は当事者自身であることが理解できよう。つまり、法 67/2006 が中心としているのは、「障害者(persons with disabilities)」なのである。
障害に関する枠組み法である法 No. 104/1992 の第3条第1項は、「障害者(handicapped person)とは、結果的に社会的不利又は周辺化を引き起こす、学習障害、他者との関係づくり又は職場への参加に関して困難を伴った安定型又は進行型の身体的、精神的又は感覚損傷(impairment)のある者」と定めている。こうした「主体を中心とする subjective 」定義では、何が障害者としてレッテルを貼られるかを特定し、障害のある人々と障害のない人々をはっきりと区別している。したがって、法No. 67/200は、新法の適用分野を明確な方法で制限するために枠組み法について触れているのである。
4.法 67/2006 の用語「差別」の意味
法 67/2006 は、他のヨーロッパ諸国5の経験から利益を受け、既にヨーロッパ法6で作成されている定義を再現している。
第2.1条は、「均等待遇原則とは、障害者に対していかなる差別も認めないことである」と定めている。かかる見解は、障害者が非障害者と同じ扱いを受けるということではない。むしろ、障害のある個人が不利益を被ることになる差別を禁じている。
第2条の以下の項目は、あらゆる差別について定めており、また、イタリア法では初めて、障害のある人々に関する2つの新たな概念、つまり、直接的差別及び間接的差別について定義している。
特に、第2.2条において最初の定義がなされている。「類似の状況において、ある者が障害と関連した理由で、非障害者に比べると不利な取り扱いを� ��けた時、直接差別が発生する。」この点に関して、以下の意見がある。
直接差別の主な特徴は、当該個人の障害により、少なくともある程度、不利な取り扱いが引き起こされるという事実にある。
当該定義からまず生じる問題は、不利な取り扱いとは何か、例えば、法 67/2006 で定める差別が生じるには、「不利」となる要素は何かである。一方、注目すべきは、実際の差別は仮説に基づく評価で判断しなければならないということである。この点に関して、非障害者も同じ状況でどう扱われているか評価することが求められるため、法 67/2006 は、確かに漠然すぎる草案であると思う7。
第2条は、差別的行為の特性について述べ、また、直接及び間接差別の定義を定めている一方で、最近のEU法を意識してそれを引き継いでいると、添付レポートは指摘している。
添付レポートで言及される欧州法は、人種、種族的出身とは関係なく、人々の平等の扱いに関する 2000/43/CE 指令、また、雇用及び職場環境に関する平等の扱いに関する 2000/78/CE 指令である。
公然とした差別的行動は別として、障害者が完全に仮説的状況と比較して、不利な取り扱いを受けているかどうか評価することは困難に思えるため、第2条を適用することは容易とは思われない8。
公然と差別される場合には、非障害者は当該の取り扱いを受けていないと判断することは可能であるが、その一方、受けた取扱いが差別的であるか否かが全く明確でない不確実な状況は数多く存在する。当該の不確実な事例が、定義の「曖昧な領域」を構成していると確信する。また、当該の全ての事例が、意見の中で示した法による影響で取り扱われる可能性は少ないと思う。
判例法は、この点について関連の提案をするだろうし、また、当該の定義を実際の意味で完全に満たし、さらに事例に適� ��することを明確にすることにも役立つだろう。しかし、法 67/2006 がまだ争われていないなら、この点に関してどの判例法も使用できない。したがって、判例で法67を如何に解釈するかについて検討することはまだ可能ではない。
法 67/2006 の第2.3条もまた、イタリア法では初めて、「間接差別」の定義を定めている。間接差別とは、「見たところでは中立と思われる規定、基準、実践、法令、契約又は行動によって、障害のある者が、他者と比較して不利な立場に置かれる」ことである。
当該の規定は、差別は実生活において様々の方法で現れることを考慮し、できるだけ多くの差別事例に対して制裁措置をとることが目的である。当該の定義の主な特徴は次の通りである。直接差別は、障害の状態と関連付けることが求められるが、一方、間接差別の定義は、一見して中立と思われる事例を含むことを意図している。
また、恐らく損傷とは関連がない理由で、障害のある個人に不利な状況がもたらされる場合がある。単なる外見的障害は、当該の定義には影響� �ないと強調することは極めて重要である。さらに、いかなる規定、基準、法令、契約または行動も、もしそれが不利な立場を引き起こした原因であれば、障害者はここで述べた訴訟を起こす権利が与えられるように定義を解釈することは正しくない。
それどころか、障害は定義の一部である。直接差別では、障害は差別の原因を考慮し、一方、間接差別では、例えば、不利な状況となる実際の結果等を考慮するなど、障害は後で関わってくる。
損傷のある個人の不利な状況を引き起こした原因の全てが、必ずしも差別条項と関わるわけではない。それどころか、関与する特定の者に限って、かかる行動が差別的であると評価できる。
外国人に対する差別に限定すると、直接差別及び間接差別の矛盾は、必ずしも容易に 理解することはできず、また、一方で、矛盾の一部は、著しい怠慢又は故意の怠慢に基づいた差別的行動、又は、全く望まれない行動を区別することとも非対称的であると、法学者9たちは言及している。
怠慢な間接差別として定義すること、また、故意の直接差別として定義することは正しくない。直接性に基づいた区別は、現に差別的影響がどのように発生するかに関する直接的又は間接的方法を扱っている。一方、ここで述べる区別の二つ目は、差別的行動によって行為する者の精神的能力を扱っている。
ある者が、禁じられた結果を求めようとする唯一の目的で間接差別をしながら、同時に、故意の怠慢な行動および間接的差別をすることも理論的には可能である。
第2.4条は、また、まるで実際の差別� ��ように見なされる行動もあると付け加えている。当該の行動は、障害と関連した理由で嫌がらせまたは好ましくない行動で、このような行動は、障害者の威厳または自由を侵害し、又は、これにより脅威、侮辱、敵意を生じる。